国内肉畜生産では類を見ない伝統生産
「旬」がある和牛「岩手短角和牛」
通常和牛は、1年を通じて人の手によって繁殖が行われる。しかし「岩手短角和牛」は、30頭のメスのむれにオスを一頭入れ、自然交配と自然放牧で、自然繁殖する、という伝統生産を守っている。
春になると子牛が生まれ、2年後に一気に出荷時期を迎える他に類を見ない「旬がある和牛」だ。
暖かな時期は、広大な山の上で放し飼いで母と子が一緒に牧草を食べながら過ごす。牛たちは足腰を使いながら、冷たく湿った「やませ」がもたらす潮風でミネラルたっぷりの牧草を食べ、健やかに育つ。
この昔ながらの繁殖方法が、自然と共に歩みながら、赤身にしっかりとした旨味がある短角和牛を生み出している。
新しい価値は思い出の味の中に
山積みの課題。それでも前へ。
府金さんには忘れられない味があった。それこそが、スペインを旅行で訪れた時に食べた牛の生ハム「セシーナ」だった。
最低1年以上、時には3年以上の長い時間をかけて熟成をすることで、赤身の肉の旨味を閉じ込め、かつ、新しい美味しさに高められる。
「唯一旬がある和牛。この旬を閉じ込めることができる最高の加工方法なのでは…?これしかない!」しかし、どのように実現できるのか…製法は?工場は?課題は山積みだった。
構想7年。「岩手短角和牛を守るためには、時間がない。腹をくくるしかない。」府金さんは理想のセシーナを作るため、岩手に新工場を作り、まだ誰もやったことがない「岩手短角和牛のセシーナ」作りに着手した。
岩手の素材ととことん向き合う
岩手短角和牛と共に歩んだ命の塩
セシーナの素材はシンプル。牛のもも肉と塩のみだ。それだけに、素材には妥協が許されない。岩手短角和牛のセシーナ作りにぴったりの塩探しが始まった。
かつて岩手は、塩を年貢替わりにしていた。厳しい寒さと、海から吹き付ける「やませ」の風のため米が十分に取れないからだ。大きな鉄の釜に海水を入れ、薪で炊き上げる大変な重労働から生まれるこの塩を、盛岡や江戸まで運んでいたのが、足腰が強い岩手短角和牛の素牛「南部牛」だ。
「野田の塩と岩手短角和牛の繋がりは、切っても切れない」
東日本大震災の津波で大変な被害を受けながらも、1年後復活を遂げた塩工房で作られる、昔ながらの薪の火で炊き上げる「のだ塩」をセシーナに使うことに決めた。
岩手町
IWATE JAPAN
the blessings of nature
失敗も成功も1年の熟成を待ってから
時が創るあの美味しさがついに
「スペインでの生産方法に近づけなくては成功はない」
腐敗せず熟成を保つため、大好きな納豆を食べることもやめてみた。冷蔵庫の業者に「壊れるからやめてほしい!」と言われても、本場のやり方に合わせて冷蔵庫の中でチップを燃やしてスモークをかけた。腐敗を防ぎながら、乾燥から守るため、短角牛の脂を塗って乾燥から守った。
人事は尽くした。天命を待つのみ!
吊るしたセシーナを初めて取り出し、表面の脂を丁寧に削り、中心に包丁を入れ、薄く切り分ける。
しっとりとして、口に運べば運ぶほど、肉の旨味・肉の香りを感じる。「スペインで食べたセシーナより美味しい!」と率直に感じた。ついに、、オリジナルの日本のセシーナが完成した。
ALL岩手で挑んだ大会
岩手の仲間と掴んだグランプリ
にっぽんの宝物の大会が岩手で行われる。そんな話を府金さんが聞いたのは、セシーナが2020年春のお披露目に向けて動き始めていた2019年の夏。にっぽんの宝物のグランプリに繋がる地元で開催されたセミナーでは、岩手を代表するような「宝物」とも言える商品に巡り会うことができた。
「審査員に認めてもらえれば、このセシーナを広く知ってもらえるチャンスだ。この仲間の商品と一緒に岩手をもっとPRできる。」
1年熟成の自慢のセシーナは、日本でわずか3軒の山地酪農という育成方法で牛を育てる「田野畑山地酪農牛乳」の自然たっぷりのミルクで作ったチーズ「白仙(はくせん)」と一緒に。そして、岩手の寒さが創る究極の甘さで、冬が旬の「馬場園芸」の「ホワイトアスパラ 白い果実」と一緒に、審査員の元に運ばれた。
セシーナを試食した海外から訪れた審査員から一言。「繊細で塩と旨味のバランスが素晴らしい。間違いなくトップライン。ミシュランスターのお店で提供されてもおかしくない。」そして見事、岩手大会の調理・素材部門でグランプリを獲得し、全国大会へ。
日本・岩手発 世界のセシーナへ
全国大会で部門最高評価
迎えた全国大会。各地域からしのぎを削って勝ち上がってきた各地域の代表者。<肉・海産物調理/加工部門>は、特に激戦区。
その中にあっても、国際経験豊かな審査員からは、「しっとり、脂の甘みが素晴らしい」「他の食材との組み合わせも楽しい」と評価され、ついに、部門でのグランプリを獲得!「ここからさらに熟成が進むと、塩がマイルドになってもっと美味しいでしょうね」というシェフからの期待の声も。
プレゼンテーションの最後に府金さんは締めくくります。「短角和牛の担い手が減って、岩手の風景でもある牧野(ぼくや)も減っている。日本初のセシーナで、日本中・世界中に岩手短角和牛を知ってもらいたい。岩手の短角和牛の生産者と、岩手の素晴らしい景色を守りたい。」岩手の自然を閉じ込めた究極のスローフード「セシーナ」。岩手の自然に思いを馳せながら、ご自宅で、大切な人とゆったりと味わってみてはいかがでしょうか。